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Music of Vihuela ビウエラの音楽

◆ビウエラについて
ビウエラは6コースの複弦(二本の弦が同じ音程かオクターブ差に調弦してあるもの)の現代のギターに良く似ていた楽器です。ビウエラの調弦法は現代のギターと同じですが、3弦だけは半音低く調弦されています。ギターの3弦のGの音をFis(F#)に下げればオリジナルのビウエラの曲をそのまま読譜演奏できます。ピッチ(音高)については絶対音の概念がない時代ですので良く解りません。バルデラーバノの作品のビウエラの二重奏では片方のビウエラを五度上に調律するものがあります。当時には何種類かのビウエラがあったようです。

◆ビウエラの音楽家とその作品について
ビウエラの音楽家をスペイン語でビウエリスタ Vihuelistaといいます。今日までその作品が残っているビウエリスタは7人です。

1.ルイス・ミラン Luys Milan
1500年頃バレンシアの貴族の家に生まれ、宮廷人として生涯の多くをバレンシアで過ごしました。1535-6年「『エル・マエストロ(師匠)』と題された手弾きビウエラの譜本 Libro de musica de Vihuela de mano, intitulado El Maestro」バレンシアで刊行。

2.ルイス・デ・ナルバエス Luys de Narvaez
16世紀初頭にグラナダで生まれた。1538年「ビウエラ演奏のためのデルフィンの六部の譜本 Los seys libros del Delphin de musica de cifra para taner vihuela」バリャドリードで刊行。ナルバエスのことを、ドン・ルイス・サパータ(Luis Zapata 16世紀のすぐれた文人、歴史家で詩人1526-1595)が「私が若い頃、バリャドリードにナルバエスと呼ばれるビウエラの音楽家があった。その才能は驚くべきもので、彼の譜本にのせられた4声部の楽曲のうえに、即興で別の4声部を付け加えることができた。これは音楽のわからない人にとって奇蹟であり、わかる人にとってはさらにこのうえない奇蹟であった。」と書き残しています。

3.アロンソ・ムダーラAlonso Mudarra
16世紀初頭に生まれた。1546年「ビウエラのための三部の譜本 Tres Libros de Musica en cifra para Vihuela」セビーリャで刊行。
1580年4月1日没。

4.エンリケス・デ・バルデラーバノEnriquez de Valderrabano
1547年「『シルバ・デ・シレーナス(人魚の詩歌集)』と題されたビウエラの譜本 Libro de musica de Vihuela, intitulado Silva de Sirenas」バリャドリードで刊行。

5.ディエゴ・ピサドールDiego Pisador
1552年「ビウエラのための譜本 Libro de musica de vihuela」サラマンカで刊行。

6.ミゲル・デ・フエンリャーナMiguel de Fuenllana
1554年「『オルフェニカ・リラ(オルフェウスの竪琴)』と題されたビウエラのための譜本 Libro de musica para Vihuela, intitulado Orphenica Lira」セビーリャで刊行。フエンリャーナはその献呈辞に「絶え間のない音楽の研鑽に、私は生涯の大部分を過ごしてきました。貴い天意は幼年の頃より私の眼から光りを奪われましたが、私は今丹精をこめた初生りであるこの作品集に光りを与えることができます。」と書いています。その「序言」に「これこそ私に多くの労苦をもたらし、また思いがけない道をたどることを強いた原因であった。神の御意志のままに暗闇の中に生きる身は、夜も眠らず、昼もまた休まなかった。」と述べています。
1579年、バリャドリードにて没。

7.エステバン・ダサEsteban Daza
1576年「『エル・パルナーソ(パルナソス山)』と題されたビウエラのための譜本 Libro de musica en cifras para Vihuela, intitulado el Parnasso」バリャドリードで刊行。

◆ビウエラの音楽の形式について
残された作品には「ビウエラの独奏曲」と「独唱とビウエラのための楽曲」などがあります。

A.ビウエラの独奏曲

1.パバーナ Pavana
イタリア起源の舞曲で、二拍子のゆっくりとしたテンポです。

2.ガリャルダ Gallarda
この舞曲は普通三拍子をとり、テンポは急速です。16世紀の前半においては、これは激しい踊りのひとつでした。

3.ディフェレンシアス Diferencias
「相異なるもの」の意、変奏曲のことです。

4.ファンタシア Fantasia
当時のビウエリスタたちがその創意を自由に働かせ、技量と音楽に対する知識の深さをぞんぶんに発揮して作曲したものです。ファンタシアは当初自由な即興のことだったらしいです。ビウエラの譜本にみられるファンタシアの大部分は模倣の手法により、二拍子をとっています。

B.独唱とビウエラのための楽曲

1.ビリャンシーコ Villancico
ビリャンシーコはルネサンス・スペインの歌曲において主に用いられた形式です。ビリャンシーコの語源はvillan(村人)にあり、その民衆的起源が想像されます。基本的には中世フランスのヴィルレー、イタリアのバラータ、アラブ社会のサハルZajalと結びついた詩形をもっています。ビリャンシーコの音楽的形式は二つの部分(本来のビリャンシーコとその「ブエルタvuelta」返しの句)から出来ています。

2.ロマンセ Romance
ロマンセは歴史的もしくは小説的な筋書きをもつ物語り歌で、8音節の詩行を長くつらね、偶数行だけが韻をふむという一定の詩形をとります。ロマンセの音楽は大変劇的で、他の形式のものにくらべて格段に古風です。中世の旋法音楽がはっきりとつかわれることがあり、対位法はほとんど使われません。

3.カンシオン Cancion
カンシオンはフランスのシャンソン、イタリアのカンツォーネに対応するもので、やや漠然と雅びな恋愛歌曲を意味していました。

4.ビリャネスカ Villanesca
ビリャネスカはビリャンシーコと同じ語源に立つもので形式的にもほとんど区別がつきませんが、一般に、より手が込んでいてマドリガーレ風だったといえるでしょう。

5.ソネート Soneto
イタリア語の歌曲で14行の詩形を用いています。


Last Update 5 May 2004
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